日本IBMのLGBTへの取り組み(前編)〜社内でカミングアウトした川田さんに聞いてみた!〜

ライター: JobRainbow編集部
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『与えられた仕事を全うするために必要な能力、才能やバックグラウンドを有する人々を、人種、肌の色や信条に関わらず雇用することがこの組織のポリシーです』


この言葉はIBMコーポレーション(以下、IBM) 2代目社長、トーマス・ワトソン・ジュニアさんのものです。この言葉が発せられたのは1953年。本国アメリカで公民権法が制定された1964年に先駆けて多様性の大切さに言及していました。その言葉が示す通り、IBMは多様性をイノベーションの原動力とする企業。


今回は、ソフトウェア事業部部長の川田篤さんにお話をうかがいました。

後編はこちら
日本IBMのダイバーシティーへの取り組み(後編)〜人事の梅田さんに聞いてみた!〜

川田篤さんが話している様子

幸せなカミングアウトができたと思っています

日本IBMにはLGBTのコミュニティーがあります。そこの代表を勤める川田さんは2015年にBest of IBMという社内表彰受賞のスピーチの際に自身がゲイであることを所属部門にカミングアウトしました。

-川田さんが代表を務めるLGBTコミュニティーはどう始まったのでしょうか。

IBMがLGBTに取り組んでいること自体、入社してから長い間知りませんでした。2003年の米国出張の際に、米国IBMの業務上の上司がその活動に携わっていたことから、人生初のカミングアウトをすることとなりました。帰国後、全世界のIBMから次世代リーダーとなるLGBT社員を集めた会議への参加を打診され、業務出張ではなく自費で参加、帰国後に日本IBMの人事と接点を持つようになりました。



その後、しばらくは人事ダイバーシティー担当との二人きりで模索する状態だったのですが、数年して初めて日本IBMの当事者社員に外部イベントで出会えることができました。前後して、現在は弊社の副会長である下野にエグゼクティブ・スポンサーになっていただきました。私も当時そうでしたが、まだ社内でオープンにしている者はおらず、社内の当事者コミュニティーの存在もほとんど知られていない中で、定期的なネットワーキングや職場の課題についての話し合いを続けてきました。



2008年、ワークライフ・女性・外国籍・LGBT・障がい者といった5つのダイバーシティー委員会が再編成されたことで、カウンセルという名前でLGBTへの取り組みが社内外に公表され、コミュニティーのメンバーも倍増しました。この頃から活動が活発になり、社内では6月にPride Monthとして、LGBTの理解促進のために、社内でポスターの掲示やセミナーを開催するようになりました。



社内での理解を広げたり深めるための活動をしたり、世の中の理解を深めるために、IBMが構成メンバーとなっている任意団体で、他の企業や団体でもLGBTに取り組んでもらうためのセミナーを開催したりと、LGBTのみならずすべての人が活躍できるインクルーシブな社会となることを願って活動しています。



コミュニティーと聞くと同好会のような印象があるかもしれませんが、ただ交流をするのではなく、職場における課題について当事者として意見を出しつつ、人事部門等と連携してLGBTの課題を解決する取り組みをしています。カウンセルの本来の役割は、会社の施策に積極的に提言をしていくことなんです。

手を組んで話を聞いている川田篤さん

現在のコミュニティの規模を教えてください。


現在、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーに加えて、それ以外のセクシュアリティの社員もいます。コミュニティーのメーリング・リストに登録されている人数は25~30人くらいですが、上は入社30年超の方から下は新入社員まで、あらゆる人が参加しています。最近は当事者コミュニティー以外に、アライ・コミュニティーも立ち上がって、アライ・コミュニティーの人数は急増しています。



昨年度入社の社員の中に、内定後にただちにコミュニティーにコンタクトしてきた者がいました。入社決定前からIBMの取り組みを知りそしてIBMを選択、面接時もカミングアウトした上で入社してくれたそうです。私たちの取り組みが社外のLGBT当事者にも届いていること、そしてそれが多様な人材の獲得につながっていることを確認できることはとても嬉しいことです。

もちろん、コミュニティーのメンバーによって、カミングアウトの状況は様々です。私のように社内外にカミングアウトしている人はまだ多くはなく、チーム内だけにカミングアウトしている人、もしくはカミングアウトしていない人もコミュニティーには多数います。完全にオープンにしている人は少ないですが、そうでない人を含めて様々な当事者がいるのだと周りに理解してもらうことが必要だと思っています。

日本IBMでは初めてカミングアウトをした川田さんですが、カミングアウトに際して葛藤などはなかったのでしょうか?


カミングアウトにはもちろん葛藤がありました。LGBTへの取り組みに携わってからカミングアウトするまで、12年くらいかかったでしょうか。当初はカミングアウトする意義がわからなかったですし、いざ必要を感じてもなかなかチャンスがありませんでした。気持ちが変わり始めたのは2012年頃でした。まだカミングアウトしていないのに、流れで学生向けのセミナーで当事者としてパネルに登壇することになってしまいました。それ以降は、しっかりとメッセージを伝えたいという気持ちが芽生えてきました。



2013年に管理職に復帰してから、その気持ちがさらに少しずつ大きくなりました。メンバーには実績を出すことを求めていながら、自分は隠しごとを持っている、というのでは、真に通じ合えることができないのではないか。かといって、日常の会議でいきなり「自分はゲイなんです……」とカミングアウトしても、唐突すぎて理解の枠を超えてしまうでしょう(笑)。カミングアウトのきっかけを模索していた頃、2015年に社内で表彰を受けスピーチをする機会が巡ってきました。

与えられた短い時間内で、LGBTを全く知らない人でも理解してもらえるように、そしてIBMの考える価値観とダイバーシティーへの取り組みにも言及して論理立てて説明しました。いろいろな考え方や多様な価値観を取り入れるカルチャーがあったからこそ自分が活躍できて受賞に繋がったとスピーチしました。

手を組んで話を聞いている川田篤さん

周囲の反応はどうでしたか?

その時点ですでにカミングアウトしていた一部の人には事前に相談していたのですが、それでも同僚がどう反応するか分からない中での、突然のカミングアウトは不安でいっぱいでした。でもその場に居合わせた人は、自分の話をしっかりと聞いてくれました。どういう反応をすれば良いのかわからなかった人も中にはいたかと思います。



前から自分のセクシュアリティーを知っていた人は、自分の話を聞いて泣きそうになったそうです。その後、会社のブログにも取り上げられ、一緒に活動してきた仲間や、なかにはお客様からも、会社のブログに「いいね」の反応をしていただけました。そして何よりも、カミングアウトによって周りの人たちの対応が変わることは全くありませんでした。カミングアウトが辛い経験になってしまうLGBTの人も少なくない状況を考えれば、自分はとても幸せなカミングアウトができたと思います。


注目が集まることでプレッシャーはありませんでしたか?

自分のセクシュアリティーをオープンにしてからは、自らの発言や行動により一層気をつけなくてはならないと考えました。オープンにしている人が少ない中で、自分ばかりが取り上げられると、全てのLGBT当事者が自分と同じような考えや経験を持っていると誤解をされてしまいます。



LGBTにもいろいろな人がいて、一人一人が異なります。自分自身、ステレオタイプな発信をしてはいけないと思っています。自分のメッセージだけでなく、他の人のメッセージも丁寧に伝えていく。LGBTの話をするだけではなく、もっとも根源的なこととして、まず人として寄り添う気持ちが重要であると伝えています。


LGBT当事者であることと仕事は川田さんの中ではどのように結びついていますか?

管理職としては、まず会社やチーム全員の業績をどうやってあげていくのかを考えなければなりません。会社としてより良い製品やサービスをお客様に提供するためには、多様な考えが評価されて全員が自由に意見を述べあえる環境が必要です。その価値観を一人ひとりが十分に理解していることが重要です。



したがって、私自身がLGBT当事者であること、そしてそれを周りが受け入れているということは、取りも直さずチームにも多様な考え方を受け入れる土壌がしっかり根付きつつあるのではないかと考えています。LGBTの問題に限らず、個人と会社の結びつきが深いことは、ビジネスの結果に対して歯車のように密接に影響してくるのです。


入社したのがIBMではなかったとしても、今のような活動をしていたと思いますか?


自分が就職活動をした1980年代でも、IBMは企業としてのポリシーがしっかり語られていて、社会に対して新しい価値観や時代を提供していく会社だったため、惹かれました。当時はLGBTに積極的に取り組んでいる企業はおろか、LGBTという言葉すらなかった時代です。

したがって、入社当時はカミングアウトをすることなどは全く考えてもいませんでした。30歳になるまでには女性と結婚するのかと漠然と考えていました。環境の影響は大きく、考えだけでなく自分のセクシュアリティーすらも抹殺してしまうものなのです。もちろん、時代的な背景もあるでしょうが、もしIBM以外の企業に入社していたら、全く別の人間になっていたかもしれません。IBMは、一人一人が声を上げられ、自分で解決策を提案できる会社です。自分自身、IBMに入って成長することができたと思っています。

川田篤さんがマラソンを走っている画像
社内のマラソン大会に参加した際の写真

現在の社内での課題と今後川田さんが取り組みたいこととはなんですか?

世の中の変化もあり、LGBTという言葉はほぼ全社員に知れ渡ったかと考えています。また、アライ自身による活動を通じて、アライのメーリング・リストも100名近くにまで増えています。当事者が自ら声をあげていると、わがままな自己主張と見なされてしまう危険があります。活動の輪を広げる上で、アライが増えることはとてもありがたいことです。



ただ、現在はセミナーや活動は「興味があり積極的に行動する人」しか参加していないため、理解がなかなか深まりません。LGBTという単語は知っていても、どのような課題があるかは理解されていない。したがって、現在の一番の課題としては、そもそも興味や関心がない人、また言葉としての理解にとどまってしまっている人にどのように影響していくのかを考えています。



アライの活動も、参加してみて楽しくなければ、積極的に学習したり、周りに勧めたりことはしない。これらを考えて、最近は社内の他のイベントとコラボレーションしてみたりしています。昨年秋の社内マラソン大会では、全参加者のゼッケン袋に「アライになろう!」というパンフレットを同梱しました。LGBTイベントに積極的に参加する層以外にも、LGBTについて知るきっかけを提供できればと思ってのアイデアでした。今年もこのような取り組みはさらに進めていきたいです。


最後に、IBMに興味を持つ就活生に一言お願いします!

自分のセクシュアリティに悩んでいる方に伝えたいのは、LGBTだからという理由で決して夢を諦める必要はないということ。LGBTだから主流になれないなんてことはありません。堂々と自分のやりたいことを進めて夢を実現してください。



自分はLGBTとして生まれて本当に良かったと思っています。カミングアウトを上司や同僚、部下に温かく受け入れてもらえたこと、LGBTでなかったら出会えなかったであろう人たちに大勢出会えたこと。自分も以前は広くカミングアウトするなどと思ってもいませんでした。チャレンジすればそれだけ 自分の成長につながります。自信をもって社会に出ていってください。

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日本IBMのダイバーシティーへの取り組み(後編)〜人事の梅田さんに聞いてみた!〜

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